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つれづれと

雑食おたくが綴る感想やら独り言やら写真やら。

【感想】朗読劇『猫と裁判』

朗読劇『猫と裁判』
6月3日~8日 全労済ホール/スペースゼロ 
出演:白石美帆徳山秀典太田基裕、小谷嘉一、山川ありそ(少年社中)、疋田英美村井良大╱大和田獏 

 

だいぶ更新遅れましたが、感想を記しておきたかったので書きます。
朗読劇「猫と裁判」を見てきました。公演が発表されたときから注意文などを読んで「これはたくさん通えないやつ…」と思ったのと予定も合いづらかったのもあって1回きりしか見に行けなかったのですが、なんというか1回で済ませておいてよかったなと心の底から思う公演でした。別にどこが悪かったとかではないんです、詳しくは読んでくださいってことで、というわけで以下ネタバレを含めて詳しく書きます。


主人公は高林啓子さんというとある女のひと。彼女が殺人事件を犯して捕まり、その事件の裁判がとりおこなわれることに。殺されたのはペットショップの店員の沢渡和也という男性。そしてその事件で高林さんの弁護を務めるのが国選弁護士の片桐さんと、一ノ瀬さん。対する検事は切れ者の山田さん。その他関係者や証人が多数登場し、裁判が執り行われていくのですが、という話です。

原作未読のまま臨んだ上に、公式サイトに「法廷朗読劇」って書いてあったのでわたしはてっきりずっと「異議あり!」「異議を認めます」みたいな(すみません知識ゼロなのでこのくらいの想像しかできません)、ずーっと法廷で会話をして弁護士VS検事みたいなことになるのかなと思っていたのですが、そんなことはなくむしろ裁判所以外のところでの話、そして回想シーンが多かったように感じました。結局高林さんがどうして殺人なんてことをしたのか、そこが解き明かされないことには裁判ができない、とくに弁護ができないよねってことで高林さんと弁護士の片桐さんと一ノ瀬さんとの話が多かったです。ほぼそこのみなさんがしゃべりっぱなしで、何度か法廷のシーンで裁判官、検事などが出てくる感じ。

結局高林さんが沢渡という、一見動物好きの好青年を殺した理由は自分が大切にしていた猫を彼に殺されたから、だったのですが、それを理解できない弁護士さんたちにもだもだしました。わたしべつにペットを飼っているわけではないんですけど、どうして「飼い猫を殺されてその恨みで人を殺してしまうようなひともいる」という、自分とは価値観の違う人間がこの世に存在するってことを認められないんだろう?って不思議でした。片桐さんも一ノ瀬さんもとてもいいひととして描かれていて片桐さんに至っては高林さんのきもちを理解するために猫を飼い始めたりもするんですけど、それでも最後まで彼女の心を理解することはできなかったんだなと思ったのは、片桐さんが高林さんの話を「ばかばかしい話」と表現したときでした。あんなに時間をかけて、この朗読劇まるまるかけてやっとのことで高林さんの過去や本心に近いものを聞き出したのに、それを「ばかばかしい話」で一刀両断した彼に高林さんの心を理解するとかそういうのは無理だったのだろうなと。それにすごい驚いたと同時にでもだからこそ高林さんはずっと孤独だったのだろうとも思いました。

じゃあかといってわたしは誰にも理解できない高林さんがかわいそうとか彼女に感情移入した見方をしたわけでもなく、彼女の生い立ちというか乗り越えてきたものがあまりにも壮絶すぎてとても置いてけぼりになってしまったのがざんねんでした。虐待とかDVとか流産とかとにかく孤独でだれにも理解されなくて寄り添える相手も頼れる相手もいなくて、ただ心のよりどころはある日川で出会った猫だけで、という。もともと舞台とかを感情移入して、とか自分と重ねて、と見る派ではありませんがそれにしても自分の理解の範疇を超えることがいろいろたくさんありすぎてちょっと高林さんが遠い存在に感じてしまいました。もしかして観客からも理解されないからこそ高林さんにはほんとうの孤独が襲い掛かっていたのか、なんていう深読み。いや感情移入できた方はきっといらっしゃるとは思うんですけど。

高林さんかわいそう!とかそういうふうには思えなかったのですがでも猫を殺されてその恨みで人を殺すというのはそのたの登場人物のように「ありえない」「理解できない」とは思えませんでした。きっとそういうひともいるだろう、と。自分がそういう状況になったときはどういう行動に出るかなんてなってみないとわからないですけど、前述のとおり価値観の違う人なんてこの世にごまんといるはずだと思っているので。もちろんそれがいいこととは思ってないです。殺しはよくないよ。猫を殺すのも人を殺すのもカマキリを殺すのもよくないよ。だから登場人物だれにも共感できずじまいで、それがつらかったです。自分と重ねるうんぬんではなく、どうして彼は彼女はこんなことを言ったのだろう?どうしてこんな行動をとったのだろう?っていうそこが理解できなかったというか。いっそ高林さんとか弁護士組とか、あるいは検事側とか沢渡さんとか、だれかひとりのきもちに共感できていたらよかったのかもですが、だれのきもちももやもやっとしてしまって、そのまま最後まで舞台を見るのがつらかったです。

そもそもわたしは殺しとか暴力とかそういうのがハイパー苦手な人間で、血とかそういう表現も苦手で医療ものドラマはまったく見られないしちょっと殴る蹴るみたいなシーンのある舞台もだめであと自傷行為とかは一番NGでいまこの文章書いてるだけでうわあああってなるかんじの人間なので、そんな人間が勇気を振り絞って行ってもだめなものはだめだったなという感想になりました。公式サイトやフライヤーで事前にいろいろきつい表現があるよと注意喚起なされていたのでそれを理解したうえで劇場に足を運んだのは自分の責任なのでもうすべて仕方のないことなのですが、途中何度も帰ろうと思いましたし、目をつむって耐えようともしました。結構つらい時間でした。

でも舞台上に置かれた椅子とか、出演者みんなのまっしろな衣装とか、ラストシーンではらはらと落ちてくる血の色をした羽とか、舞台後方スクリーンに映し出される映像の使い方とか、そういうのはとても好きでした。朗読劇だからみなさん台本を持っているんですが、途中からそれを忘れてしまうような、そんな空気感は好きでした。あとキーパーソンの沢渡和也の存在がたまらなかったです。最初はにこにこ笑顔で好青年だったのにだんだんと素顔が見えてくるかんじ。彼が殺されたところから話が始まるので沢渡の発言はすべて幽霊の発言みたいになるのですが、存在感があいまいで、でも言っていることが鋭く尖っている、異質すぎる存在がとてもざわざわして目が離せなかったです。ラストシーンの豹変ぷりとかもぞくぞくしました。

 

演出や、出演者の方々の熱演はすごく心に残った作品だったので、欲を言えばもっと残酷な表現がないような、そんな作品でまたこのような朗読劇を見たいな、だなんて思いました。とにかく題材が自分と合わなかった、それだけなのでちょっとざんねんです。次の出会いに期待したいと思います。