読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

つれづれと

雑食おたくが綴る感想やら独り言やら写真やら。

【感想】中野喫茶室

感想

中野喫茶室

2014/5/27~6/1 テアトルBONBON
出演:柏進・坂本隆行・肥田強志 加藤良輔・西野正崇・重見将臣 川隅美慎・福山聖二・小野健太郎 ナリナリ

 

喫茶室、行ってまいりました!中野、じわじわ遠かった!個人的に今回のメンバーはabc赤坂ボーイズキャバレーという去年の夏までやっていた作品でおなじみ、って方が多かったので名前の並びだけでそわそわしちゃったり、うれしかったりなつかしかったり、逆に「ああ今年の夏はほんとにabcないんだな~」ってしんみりしちゃったりする不思議なメンバーでした。というわけで以下ネタバレを含む感想になります!

 


場所はとある喫茶室。そこで働く3人の従業員、そこに通う3人の常連客、そしてそこにふらっとやってくる3人の新たなお客さん。それから、もうひとり、歌っているひと。その10人のお話。
あらすじを書けと言われてもむつかしいです。べつに、なにか軸があって事件があって、解決して前向きになって、みたいなことはなにもなくて、ただほんとうに、ほんとの喫茶店みたいにお客さんが出入りしてちょっと店員さんとお話して、用が済んだらお会計をして去っていく。それだけ。それだけなんですが、わたしはその空間がとっても好きでした。

 

特に前半はなのですが、ほんとびっくりするくらい「なにもない」状態が続きます。もちろん店員さんが掃除をしたりとか、常連客さんたちが来たりだとか、あるんですが、別に何かが起こるってわけではなくて、本当にゆっくりゆっくりと時間が流れていきます。最初は「なにが起こるのかな…!」って身構えていたのですが途中から「あっこれはそういうものなんだ」って気づいてからはそのゆったりした感じに身を任せるのが心地よかったです。目まぐるしくお話が展開していって、登場人物がたくさん出てきて、場面や時系列が移り変わって、っていうのを最近よく見ていた気がしたので、こういった、「なにもない時間」を切り取った空間がとても居心地よくてしあわせでした。贅沢な時間の使い方でした。そういえばワンシチュエーションも久しぶりに見た気がします。

 

この作品にはいろいろな特徴があって、その中のひとつが「登場人物に役名がない」というものでした。役一覧を見てみると、「待ってる人」「一人の人」「来る人」「歌う人」という4種に分類されています。待ってる人が店員、一人の人が常連客、来る人が新たにやってきたお客さん、そして歌う人が人間ジュークボックス(くわしくは後述)。これ、サイトとかで発表されたときはどういうことだ!と思ったのですが、いざ本編を見てみたらそれがごく自然なことに思えました。だって日常生活において喫茶店に入って隣の席のひとの名前を知る機会なんてそうそうないし、店員さんの名前も名札があるお店じゃない限りはわからないし、店員さん側から見ても客の名前なんていちいち把握しようがないなあと。喫茶室という場所で自己紹介をした記憶はわたしにはないので、みんなの名前がわからないのもごく自然のことだなと。だからこそ、名前は知らないけどいつも頼むものは知っている、仕事も詳しくは知らないけどなんとなくなら察しが付く、みたいな、その現実的な感じを演出しているのがこの「○○な人」という表現方法だったと思います。そういうところがお芝居じみていなくて、とても地に足がついていてしっかりとしていました。

 

中野喫茶室にはいろんなひとが出てきます。まず店員さんの3人は、店長さん(たぶん)とおバカな後輩くんと根暗さん。常連客さんは作家さん(仮)とパチンコ依存症のおにいさんとメガネの不動産会社の営業さん。新たに現れたお客さんは役者の先輩と後輩とそのマネージャーさん。あと人間ジュークボックス(やっぱり後述)。このなかでわたしが印象的だったのは、役者をしている先輩後輩とマネさんの3人でした。
ほかの人たちはお店の中での知り合い、お店の中だけの知り合いという関係性の中、この作品で唯一「店以外の繋がり」を持っているのがこの3人です。さいしょに役者の先輩(えらそう、こわそう)と後輩(気弱そう、まじめそう)の2人が来店しますが、2人そろってやってくるお客さんも彼らだけです。元々知り合いなのだから同じテーブルに案内されるわけで、そしたら会話も生まれるわけで。ちゃんとした会話、というのも変ですが、お店の外の話を持ち込んで客同士しっかりと話し込むのも彼らだけです。常連客はあまり自分のことを語らないし、話したとしても店員と客、だったので。
それで彼らの何が印象に残ったかと言いますと、まずは先輩後輩マネージャーさんの関係性です。ぱっと見ると先輩がこわそうで後輩はいい子そうで…ってかんじなのですが、実は後輩は猫被りの嘘つきちゃんで、後半ではオオカミ少年だなんて言われてました。先輩のこと簡単に売るし、マネージャーの前ではぶりっこして泣き真似もする。一方の先輩は後輩に簡単に売られるしそれに文句言うとか抗議するとかもできない。不器用なひとです。そして彼らの面倒を見ているマネージャーさんは何でもわかってる。後輩にはお菓子ばっかり食ってサボりやがって!って文句言われてましたが寝る暇も惜しんで彼らのためにがんばってる。あと後輩の猫かぶりも知ってる。そしていつもそっと彼らを支えている。なんていうか、この関係がわたしはとても好きでした。さっき書いた通り直接的な関係っていうのはここの組だけだったので余計その繋がりというのがはっきりと見えて、好きでした。オオカミ少年である後輩くんは途中で本性を露わにして口調もぶっきらぼうになってキャラ変わるんですけど、そうなってからの彼がとってもすきです。そしてそんな彼を怒るでも軽蔑するでもなく「おまえ口悪いなあ」ってあきれたように笑って紅茶を注いであげる先輩がとんでもなくすきですし、そんな彼らがいまなにしてるのか、直接言葉で伝えなくても気遣ってそっとサポートしてくれているマネージャーさんの母性みたいなのがたまらなくすきです。好き、しか言ってないや。彼らのぎこちないけどたしかにつながっている感じが魅力的だった。後輩の最後のごちそうさまです!とかとてもきゅんてきました。あと先輩の紅茶のいれかためっちゃかっこいいんですけど!
あと、若手俳優を追っかけてる人間にはけっこうぐさぐさ刺さるな~っていうことをぐさぐさ言われるっていうのも彼らが印象的だった理由になるのかなと思います。後輩が語るTwitterとかブログのネタ探しとか、スタバに行きすぎてスタバ破産とか、同じ服は着られないとか、そういう細かいところが、あー、若手俳優あるあるなのかな~って。ちなみにわたしがいつも追っかけている方々はスタバにあまり寄り付かない方々ばかりなのでスタバ破産という言葉とは無縁そうでそこだけはちょっと安心してますが、でもすごく、染みるお話を聞きました…。わたしはそうでもなく、むしろあるある!わかるわかる!って楽しみながら聞いてたのですが、あれおそらく平静に聞けなかった方もいるのでは…ってくらいリアリティにあふれていました。

それから、この作品は柏さんが脚本演出ということでしたが、どことなくあて書きなのかな~って感じがしたので、そう思うと特に福山さん川隅さんあたりのことを考えてふふふふってなってます。

 

それから眼鏡の不動産会社のサラリーマンさんと、根暗店員さんのやりとりも好きでした。彼らが向かい合ったときに人間ジュークボックス(次こそ後述)が歌う「笑え笑え笑え…」という曲が流れるのですがそこの最後のフレーズが「きっといつかほんとに笑うぞ」ってなってます。サラリーマンさんは常にへらへら笑っている人、根暗店員さんは常に仏頂面のひと。ほんとに笑うっていうのは、このふたりにとって大きな意味があるんだなってしみじみ。仏頂面の根暗店員さんに向かってサラリーマンさんは「君は感情を素直に出せていいね」と言いますが、その言葉に店員さんもわたしもはっとしました。怒っているって言うのも、れっきとした素直な感情表現なのだなと。さいご、店員さんは笑顔の練習をして、サラリーマンさんは彼にありがとうと言い残して去っていくのも好きです。

このサラリーマンさんと根暗店員さん、みたいに店員さんとお客さんがそれぞれ組み合わせで気に掛け合っているので、作家さんとおバカ店員さんのあほコンビもすごいすきです。店長さんはギャンブラーさんと、マネージャーさん。そう考えると、やっぱり先輩後輩だけは彼らの中でのやりとりで成立してるのですかね。いい事務所だ。

 

そして、とっといておいた人間ジュークボックスの話なのですが。
それを話すには開演前の劇場の様子からお伝えせねばなりません。まず、劇場に入って座席につこうとするとステージの上にすでに男の人がひとりいることに気が付きます。彼はギターを片手に「人間ジュークボックス」という看板を掲げ「100円でリクエストに応えます~♪」だなんて歌っているのです。なんだこれは!ってちょっと動揺しましたが、すごくわくわくしました。100円払うのはガチです。ステージの傍まで行って箱にお金をちゃりんと入れると、じゃあ何がいいですか?と曲目リストを見せられ、頼んだ曲をその場で演奏してくれる…というものです。人間ジュークボックスという存在自体は別の場所で大道芸みたいなかんじで目にすることもあるので知っていたんですがまさかこんなとこに出現するとはってかんじでした。そのまま何曲か歌ってくれていると、開演時間になります。と、根暗の店員さんが不意にやってきて彼に「はじまるよ」とだけ短く伝える。人間ジュークボックスの彼はギターを持ったまま捌ける…かと思いきや、ステージの隅っこにちょこんと座って、そのまま、本編が始まるのです。
そこから本編が始まっても、というか最後まで、人間ジュークボックスの彼のセリフはひとつもありません。開演前はあんなにしゃべって「たのしんでいってくださいね!」とか笑っていたのに、お芝居が始まったらずっとずっとずーーーーーっとだんまりで、微動だにしません。かといって、捌けるわけでもありません。ただただ、最初から最後まで、そこに座っているだけ。しかし彼が動くときがあります。それは本編手にしたギターでのBGMを担当するときと、そして箱にお金を入れてもらったとき。「一人の人」つまり常連客さんの中に彼の歌が大好きで、一日に何度も足を運ぶ営業さんがいます。その人が彼の前に置かれた箱にちゃりんとお金を入れると、彼は歌いだす…というわけです。あと後輩に見捨てられた先輩も100円をちゃりんと入れる。するとやっぱり歌いだす。最初彼は、機械の存在の比喩みたいな存在なんだと思ってました。店の中でどんなやりとりをしても興味を示さないし、逆にほかのお客さんも彼はいないものとして扱うし。けれどたまに彼のことを「彼」って呼ぶセリフがあるのです。まるで人間みたいに呼ぶし、そもそもほんとの人間じゃなかったら「人間ジュークボックス」は成り立たないし、でも人間にしては人間ぽくないし、あれはいったいなんなんだろうって、考えた結果、たぶん彼は「歌う人」なんだと思っています。それ以上でもそれ以下でもない、歌うための人。歌っている人。存在が曖昧で、わたしには定義できなかったのですが、彼の歌は本当に耳に残ります。何度も何度も脳内でリピートされます。作中に何度か出てくる曲は、観客にも、たぶん登場人物の心にも突き刺さります。たぶん。そんな、不思議な「歌う人」がいました。結局何だったのかはっきりとした答えが出ないので「歌う人」って存在にしておきます。答えが出てないんですけどだからもやもやするとかじゃぜんぜんなくて、それだからいいやってなる。ほかがぜんぶ地に足ついててしっかりしてて日常的だからこそそのちょっと異質で不思議な存在がスパイスみたいになってて、わたしはそのバランスがとても好きだったという話です。

 

登場人物みんななにか抱えているみたいで、でもそれってとっても人間ぽくて、ほんとうに中野のどこかの喫茶室覗いたらいるんじゃないかなっていうひとたちで、うまくいえないのですが、距離感の近い存在でした。台詞ひとつとっても、台詞っぽくないひとが多くて、特に柏さん演じる店長さん(たぶん)なんかは「あれですよねー」とか「あのー」とかとにかく言葉と言葉の間がすごい長くて、普通お芝居でそんなにえっととかあのとか言わないだろってくらいな感じで、ほんとうに日常の会話みたいでした。無言の時間も多かったし。作家さんは「中野喫茶室」で起こる大事件をずっと期待していたけれど、そんな都合よくいかない。ドラマみたいなことはそうそう怒らない。でも、日常なんだけど、日常的だからこそ、見えないところではみんななに考えているかわからないよ。笑いたいのに笑えない人も、ずっと笑うしかない人も、本当は何考えているかわからないんだよなあ、そうだよなあ、喫茶店の隣にいるあのひとがいましあわせかそうじゃないかなんて、わたしにはわからないんだもんなあ、それが日常なんだよなあって、改めて、しみじみしました。みんな必死なんだよって言葉もきっとそうなのかもなあってなって、そして、ドラマみたいにはいきませんね、からの最後の店長さんの台詞がとってもお洒落でした。


お芝居じみていない、ふわふわとした時間が流れる空間、とても、とても好きでした。行ってよかった!あと、中野喫茶室のテーマ?が頭から離れないの勘弁してほしいです。道順もちゃんと覚えていってよかったです!ほんとに、こんなとこにTSUTAYAあるのかー、あっお花やさんあったー、Y字路わかりづらいな~とか思いながら歩いてたから、初めて聞いたときは頭の中読まれてんだと思いました!ほんとにほんとに行ってよかったです。贅沢させていただきました。ごちそうさまでした。